11 進化の法則
進化論の盲点は、時間(変化)と空間(階層)の問題、つまり系統発生と個体発生の関係と示す事実である。
進化の盲点は、過去(化石)と現生生物をの結びつきの法則である
進化と進化論の分類
生命=生物の進化に関しては、進化論、進化の法則、進化の要因など諸説があることはご存知のとおりです。
以前のここでは、進化の理論には一定の根拠があるためその範囲では適用できる、として法則の限界、として説明していました。
その後、自分の仕事から進化を分析する中で、以前の説をさらに検討して得たのが、進化論を分類すると進化の盲点となっているところが見えてくる、と言うことでした。これまで系統発生と個体発生の関係が気になり、反復説を分析してきたのですが、その意味が明確に見えてきたのです。
それは、時間(変化)と空間(階層)の問題です。といってもこれだけでは理解できないと思いますので、以下に概略を述べます。
進化の説の分類基準
各理論は一定の事実に基づいて立てられています。その根拠を現生生物から、古生物から、そして普遍的現象からの3分類としました。むろん厳密には分けられないし、根拠が双方にあることも有ります。だいたいこのように区分できると考えてください。
現生生物からあの理論は、用不用説、自然淘汰説あるいは適者生存説、突然変異説、中立説などです。
現生生物から提唱されているのは、進化の要因あるいは原因ですが、これは現に生きている生物からの類推として当然と言えば当然です。
問題は、いずれの学説も古生物との整合性の検討は不十分かなされていない、と言う点に注意を払う必要があります。
古生物からの理論はペトロニイヴィクヅPetronievics,Bのまとめた進化の二十四法則(新版 科学論(下)51-62頁、井尻正二、大月書店、1977年) のようなものです。
これは、やはり現生生物ではどのような現象がこれに繋がるのかの検討がほとんどありません。
普遍的原則からの理論は、根拠が現生生物のことも、古生物のこともあり、また無機界からのこともあります。
普遍的原則としては、リズム(周期性、律動)やエネルギー、反復説もこれに入れられると思います。
これだけでは理解がむりなので、ちょっと説明を加えます。
リズムは、古生物学では断続平衡説、起源、変化、繁栄、絶滅という進化段階(説)の考えも階層を変えればリズムととれます。発生学からは三木成夫の個体発生のリズムから系統発を類推するなどがあげられます。
エネルギー説には、剰余進化説などです。これも現生生物学からの提案と地質現象からの提唱された説があります。
何が問題か
これらをざっとみての通り、過去の現象と現在の生物現象を繋ぐ「糸」が充分に検討されていないのです。
だから反復説がその陥穽を埋める理論として重要なのが理解できます。
これは系統発生と個体発生をどのように結びつけるかの問題なのです。
「生物の進化論、あるい法則は、全生物に当てはまらなければならない。」
「これまでの進化学説は殆どその適用には限界がある。
現生生物からの提唱は、進化の原因あるいは進化要因である。一方、古生物からの提唱は、進化の様式あるいは型である。
検討のさい大切なことは、生物のあるいは生命の進化とふりかざすかぎり生物に例外があってはならないことです。くわえて学説をみる時に大切な視点の一つは、各学説を提唱した研究者の専門性です。とくに、化石の事実から理論を作ったのか、あるいは現生生物の現象からの理論であるのかという点がとくに大切であろうと考えています。
結論をいえば、これまでの学説はいずれもそれぞれの事実に基づいて提唱されており、それぞれの学説の限界はあるにせよ否定されることはない、と私は考えています。ただ、生物学的な学説には系統発生=進化に反映されうるかどうかの根拠が必要だし、また古生物学的な学説は実験ができない、ということを心にとめる必要があると思います。
以上のような視点に加えて、各学説がどのような生物で起こりうるのか(法則の限界)、さらに体制の原則に沿っているのかという点を私は基軸にして考察しています。なぜなら私の提唱する「体制の原則」は地球、宇宙の原則に基づく普遍的なものであり、それゆえ万年単位でも繰り返す可能性が極めて高いものであり、よって個体発生と系統発生が相互に反映される根拠となる、と考えられるからです。
以上より、これまでの進化の理論の多くが一定の生物の法則であり、生物全体からするとかならず例外がある、つまり法則の限界があるためこれらは「進化様式=型」と考えられます。ただし多くの法則は、宇宙、地球の法則に沿う体制の原則へ普遍化できる点もまた多く含んでいますので、私見として検討に加えました。ご批判いただければ幸甚です。
ヘッケルの反復説は「4系統発生と個体発生の関係」で検討を加えていますが、井尻さんはこれをここに付け加えたいと思っている、と記述しています。そこでこの説を含めてわたくしが代表的と考えるいくつかの学説を最初に簡単に検討し、その後でB.Petronievicsによる「種、系統樹および群の進化の法則」のそれぞれに検討を加えます。
用不用説:ラマルク(Chevalier de Lamarck):動物哲学にかかれています。簡単に言えば、つかう器官が強化され進化するというものです。1800年代初頭に進化と唱え、獲得形質もあると考えていました。
現生生物では、使用する器官が強化されることは当然の事実です(例えば運藤と筋肉の発達の関係など)、それが進化につながるというのは「内因」が重要だと言うことです。その前提には変異があることを認識し、さらに進化する=歴史的に変化することを認識していたことが大切な点ではないでしょうか。現生生物学も化石も扱う博物学者でした。しかし現生生物の使用頻度が高く強化された器官がどのような過程を通して万年もかかる進化に反映するのかについては時代の制約もあり当然考察されていません。
さて、進化論を議論する中で、とくに重要なのは、ダーウィン、ヘッケル、メンデルの仕事ではないかとわたくしは考えています。もちろんその中には現在の科学の水準からするといろいろ不都合な点はありますが、ダーウィンの進化の考え方、ヘッケルの過去と現在の関連付け、そしてメンデルの遺伝子がその眼目でその価値は現在も生きていると
「種の起源」(1859):ダーウィン Charles Robert Darwin:進化論、進化思想を確立しました。これは、種、つまり集団(群れ、種)が歴史的に変わることつまり進化すること、進化は自然淘汰(自然選択)すなわち環境の影響があること(外因)、そして変わった形質は保存され遺伝することをしめした。種(集団=群れ)における歴史的変化そして現生種の変異、その遺伝という一連の進化の方向を確立しました。博物学者で地質学者でもあり生物学者でもあります。
しかし彼もまた当然ながら個体発生と系統発生の関係まで手が届いていません。よって、化石と現生生物との関係は想像になっています。
この説のもっとも重要なのは進化する、ということで化石と現生生物から導き出されました。進化を変化(時間)と空間(階層)と捉えると、普遍的法則となります。
自然淘汰(自然選択)は、ドバトの実験でわかるように現生生物からの発想です。生物に於ける種間闘争や種内闘争などの報告で分かるように、法則の適用には一定の限界があります。
反復説:ヘッケルErnst Heinrich Philipp August Haeckel:1874年に提唱されたもので、個体発生と系統発生の関係を検討したのでここでは要点だけにします。
反復説は以前からいろいろありましたが、「種の起源」にもなかった両者の関係を形態学と発生学を根拠に論理的に説明しようとした点で重要です。この学説はダーウィンの理論を補強し、その結果、進化論が学会でも社会的においても確立し、その影響が今日まで残っています。それほど影響の大きい学説です。むろん反対意見も多いのですが、個体発生(組織や器官も)の順序が系統発生を反映するのだと機械的に当てはめる研究者も現在でもまだまだ沢山います。これは理論的に考えやすい、整理しやすい面を持つからだと思います。
歯の分野のCopeとOsbornによる「三結節説」(1900年頃)も同様です。彼らは「変異」であるといっていますが、咬頭の形成順序と系統発生を結びつけると理論的で頭の中では理解しやすいのです。これはいまでも脈々と生きていて、歯の形態の講義で歯の形態の理論的根拠として使われています。
ヘッケルは生物学者ですが化石もたくさん研究しています。
幼形成熟:Louis Bolk:1920年ころ、ヒトにおける「幼形成熟」を唱えました。Bolkはこれ以外にも歯の形態を「集合説」で説明する(私は、これは三結節の瑕疵を補っていると考えています)など、発生学の研究からの功績が大きい解剖学者、発生学者です。しかし古生物も造詣が深い研究者です。幼形成熟はサンショウウオやホヤなどでも認められます。また発生過程には数多くの癒合や退縮が認められます。
私は、歯の集合説は進化に反映されうる重要な学説のひとつだと私は考えています。発生では器官や組織の癒合は頻繁にみられ、変異の一つと考えているからです。
中立説:木村資生:1960年代に中立説が提唱され世界を席巻しました。極端に言えば遺伝的な変異とそれが大きなもの、劇的なものでなくとも進化に結びつく可能性があるというものです。遺伝学者です。
検討:遺伝子に様々な変異があることを膨大なデータで示したことが最大の功績でしょう。ただし、これが進化に結びつく可能性の根拠は他の現生生物学の進化論と同様で明らかになっていません。つまり遺伝子の変異と長い地質時代との整合的な説明がありません。また、遺伝子を扱うと遺伝子のみの可能性に限定されるように考えがちですが、発生、細胞分化の過程では遺伝子だけではなく他にも膨大な変異があり、また逆に酵素一つ欠けても発現しない可能性もあることは何度も言及しました。
私は様々な変異は、体の内外と調和すれば長く繰り返される可能性があり、それが宇宙や地球に基づいた法則に沿ったもの(体制の原則)であるなら万年単位で繰り返され進化要因となり得ると考えています。これは後で説明します。
木村以外の遺伝学の進化論者としてはドブジャンスキー(T.G.Dobzhansky)が高名ですが、やはり遺伝学的現象が進化へ反映する過程は明確となっていません。
断続平衡説:グールドStephen
Jay Gould:1970年代に彼は、進化は一定の間隔をおいて急に放散進化するという学説を提唱しました。古生物学による系統樹で放散が一定の間隔でおこることは従来から分かっていたので目新しい説ではありません。むしろこれを現代遺伝学と結びつけようとした点に斬新さがあると考えられます。
しかしやはり、どのようにして現生生物学の現象が何万年も続き進化に反映されるのかにかんする根拠、つまり系統発生と個体発生とが関連する根拠は殆どありません。なぜこれが今多くの注目を得たのか、浅学の私には理解が出来ないところです。逆に古生物分野の研究者が現代生物学の分子生物学や遺伝学を採り入れる時は注意が必要との教訓を得ました。かれは古生物学者です。
剰余エネルギー進化説:白井浩子:2009年ごろ提唱されたもので、ウニの発生から導き出した学説です。発生には決められた経路以外の現象があり、これは剰余エネルギーによるもので進化に結びつく、というものです。これは中立説を強化するものです。そして進化は万年単位の現象であること、進化過程では階層が累積することも指摘しています。
この場合の剰余というものは、私は生物の「あそび」の部分であり、それは変異のことだと理解しています。つまり発生過程には遺伝子に始まり酵素などなどすさまじい変異があり、このような変異が進化に結びつくというのは従来からの考えです。その意味で中立説と一致します。ただし剰余エネルギーの問題は、エネルギー保存の法則という物質界の法則と同じであるゆえに普遍性があるのか、進化あるいは退化がどうして起こるのかという変化の根本問を提起している、とも私は考えています。
そして進化は万年以上のながい時間的問題だとの指摘もその通りですが、中立説と同様に現生生物の現象が進化に反映する過程の根拠については明確な根拠を示していません。
もうひとつ大切なことは階層の累積の問題です。これは多細胞動物になると組織、器官、器官系などのさまざまな階層が生まることを指しています。しかし、多細胞動物でも単細胞動物でも個体は個体として、細胞の数や階層の数、複雑さに関係なく種を構成します。ですから、進化の一つの現象として“階層の分化”があるという視点は大切だと私は考えています。
以上をみると生物には変異があること、地質時代での変化=進化があることは共通に認識しているようです。しかし変化の原動力、私の言う進化その要因(進化の要因)については、現生生物からの要因のみで、普遍性のある要因が、ほとんどこれまで分析されていません。
そして進化のすすむ過程(進化様式)には外因も内因も関係しています。
このような中で系統発生=進化と個体発生を結びつける根拠が反復説だったわけです。それゆえにこの学説が現在も研究に陰に陽に影響を与えているのです。
しかし、発生の過程もまた多くの変異があり脊椎動物に限定しても反復説の現象はその一部に限定されるといえます。それ故に普遍性という点には問題があり、化石(進化)と現生の生物を結びつける必要かつ十分条件ではない、と私は考えています。換言すれば、両者の現象が似る過程が未解明だということです。
つぎに、ペトロニイヴィクヅPetronievics,Bのまとめた進化の二十四法則(新版 科学論(下)51-62頁、井尻正二、大月書店、1977年)を検討してゆきます。
1) 放散の法則
生物のある同一の群の亜群(ある種の諸変種、ある属の諸種など)は、進化の過程で種々異なる方向に特殊化しつつたがいに漸次へだたる傾向がある。
生物進化の一基本法則であるこの法則は、最初ラマルクによって1809年に、ついでダーウィンによって1859年に設定された。最近オズボーンはこれを哺乳動物の進化にあてはめて試した。オズボーンはこれに対して「適応(化)放散の法則」(2 The age of mammals 1910 p.22 など)という名前をつけている。
検討:生命が原始の海で生まれ、陸へすすみ、かつ今では宇宙も窺がうという、放散や拡散は生命の進化の基本(生物全体の原則)だ、と私は考えています(拡散性)。これは宇宙の星の進化ともまた共通します。しかし、三味線貝などほとんど放散しないで現在に生き残ったと言われる種類もいます。しかし、シャミセンガイも現在の形態とニッチを獲得するためにはかつて放散したはずですし、階層を変えてみると変化が見えてきます。進化速度が種や属などによって異なるという問題でもあるようです。すなわちこの法則は体制の法則と一致する進化の基本法則に通ずる、と私は考えています。古生物学。
2) 特殊化漸増、あるいは指向性特殊化の法則
一系統樹で連続している諸種は、進化にしたがって、しだいに同一の方向に特殊化する。
指向性特殊化(注:定向進化し特殊化する)のひじょうに正確な古生物学上の第一の例は、コヴァレツスキー(W. Kowalewsky 1873) によって、馬の系統発生で発見されえた、以来この法則は、コープ、オズボーンなどによって調査された、おびただしい他の例によって確認された。そして、ついに1907年にドペレー(Deperet)によって明らかな法則としてまとめられた。
検討:同じ系統の生物の器官レベルで(階層性)もこれが当てはまることがおおい。問題は定向性が担保されるかある。これを遺伝子のに因るとするのが一般的であるが、遺伝子自体も変位するものであり、一定の方向へ遺伝子が変化することにかんする保障、担保は解決されていない。私は全階層の嗜好性であると考えているが如何なものであろう。ちなみに嗜好性は進化の議論はほとんどされていない。その原因は科学性あるは論理的ではないというもののようである。
さて、この良い例が霊長類のヒトの脳やウマの足の進化です。ただし脳の増大は他の器官の退化を招いたし、ウマの足は進化して指が長くなり数が減りました。これらの対称的現象によって階層をあげるとバランスが保たれるのです(対称性と相補性)。階層を意識すると進化していることと退化の対称性が共存します。どのような対称性で平衡を保つかという視点を階層によって分析するのが重要でしょう。また進化する方向は種の特異性、つまり嗜好が大きな役割を果たすのです。古生物学。
3) 特殊化交替の法則
もし一系統樹の特殊化があまり進みすぎていなければ、新しい部分が一つの新しい方向に特殊化することができる。
この法則は、つぎの法則とあいまって、長期に連続する系統樹は、しばしばかわるがわる特殊化の方向を変えることがあるという事実をあらわしている(注:L.Dollo 1899 によって強調された)
検討:進化が生じた初期の時期にまた別の方向性への進化=変化が生ずること。これは進化の初期に変異が多くみられそれが進化に結びつくと理解できます。定向進化とはちがいます。変異は細胞、器官、個体、種の各階層で起こるし、進化過程のどの過程でも変異が生じ、体制の原則に沿う変異が前の進化に取って代わる(ようにみえる)、と私はみています。古生物学。
4) 特殊化追増の法則
一系統樹の特殊化があまり進みすぎていなければ、同じ部分があらたに同一方向に特殊化することができる。
この法則は、機能の変化の起源という重要性があるにもかかわらず、通常前者と混同されている(ドーン Dohrnによる)
検討:一系統内の生物の機能の獲得とその変化の問題。猿の足的な手からヒト的な手への推移などが相当する。3)の法則の項にも記したが、変異はそれが体制の原則に沿いかつ環境と適合(調和)すれば、前進的な進化の方向性と調和し、やがて安定した形質となることを示す、これは進化の途中でも変異しそれが進化に結びつくと考えている。古生物学。
5) 非特殊化の法則
生物の上級の群(種属・類)はつねに下級の群の特殊化していない亜群から生じる。
この法則は生物進化の一つの基本的法則であって、コープCope(On the
hypothesis of evolution 1870,p137, A
Review of the modern doctrine of evolution :the Origin of the Fittest P.232,)によって、1880年にはじめてのべられた。そしてかれは、多数の例によって、これを著名なものにした。
検討:生物進化の系統樹によって分かります。古生物学的な事実より導かれた一般な法則です。しかし、これまでみてきたように例外もまた多くあります。一定の群れ(種や属、科などなど)として進化する点が重要です。生物の階層という点から見れば下の階層ほど変異が多いことを示しています。古生物学者で歯の領域では三結節説を提唱し、現在も教科書に記述されている。
6) 躯体大化の法則
一系統樹の諸種は、進化にともなって漸次体躯がおおきくなる。
コープCope(1880年)によって最初にのべられたこのほうそくは、以来、とくに哺乳類の領域で引用されたたくさんの例によって確認された。
検討:この法則を生命の進化から見ると多細胞化自体が一般的な法則と考えられます。しかし、単細胞生物でも大型化や小型化が認められます。小型化の良い例がウィルスです、一方ミミウィルスやパンドラウィルスは巨大化するのです。一方、多細胞生物の巨大化は菌類をはじめとする植物にも動物にも認められます。しかし、一方では小型化があり、その例となるのが矮小化と言われるゾウなどです。多細胞生物の小型化は二次的な変化である可能性がたかいと言えます。このような面を考慮すると、この法則は「体(個体)の大きさは変化する」という普遍的法則への基礎となると考えられます。様々に変化して環境と調和するのです。
いっぽう器官などからみると、体が大型化にするにしたがい器官が大型化する場合としない場合、むしろ器官が小型化し退縮するばあいもあり、これは器官系、組織、細胞でも同様です。つまり階層性による法則の違いがあることにも注意する必要があります。古生物学者。
7) 収斂の法則
種々異なった群に属している系統樹の枝は、しばしば同一の方向に特殊化する。
ビュフォン(Buffon)によって古く注意されたこの収斂の事実は、19世紀中におおくの著名な自然科学者によってたしかめられた。ダーウィンもまたかれの著書の後版で、その重要性を論じている。しかし、なかんずくそのおおきな価値を指摘したのはコープ(1868年 On the Origin
of the Genera とくにp95-104)である。なおスコット(W.B.Scott)はこれを法則にまとめあげた人々のなかで最初の人である。
検討:平衡進化のひとつです。先祖を同じとする異なる枝の種類が違う地域環境で同じような特殊化をしめすことです。同じ系統は同じ嗜好性があり異なる枝の種類でも環境とのバランスで同じ嗜好性に基づく同じような様式で解決する、ということだと考えられます。変異の一つと私は考えています。古生物学者。
8) 平行の法則
同一群に属する系統樹の枝は、しばしば同一の方向に特殊化する。
平行の法則は、オズボーン(The Ideas and Terms of modern philosophical Anatomy, Science 1905)によってはじめて収斂の法則から区別された。
検討:これも同じ群れに属すれば身体の内因(構造や嗜好性が)が類似するため環境とのバランスをとる様式も一致し、それが体制の原則に一致するなら進化する要因になり得る可能性が多いと考えられます。しかし、異なる環境への進化でも同じ形質が発達すること(ウマやゾウの例)から、基本的に嗜好性があると考えるほうが妥当だと、私は考えています。古生物学者。
9) 単系統進化の法則
一つの生物群は、つねに一つの単独の起源をもつ。
生物の一種がつねに一つの起源をもつ、ということの確認は、ダーウィン(1895年)によってはじめてのべられ、かつ擁護された。
検討:この法則を逆にみると生命の基本的原則として拡散があることが分かます。それは元来一つの種が地域的にも広がり多様な種へ分化することがあるため、拡散の根拠となります。反対に異なる系統の生物が一つにまとまる可能性もあり得ると考えられますが、古生物学的には立証されていません。私のこの推定の根拠は、現生生物での寄生の問題、動物の体内のミトコンドリア、大食細胞などが寄生に由来するとの仮定にあります。この法則は種を進化の基本的な単位であると考えていることに注意が必要でしょう。次の法則を参照して下さい。古生物学。
10) 多系統進化の法則
一つの生物群は二重の、あるいは多様な起源をもつことがある(各々の大きな種属は一組の平行する系統樹をふくむ(ドペレーP162 )ということをしめす一つの他の法則のことを、今日の古生物学者は、しばしば多系統の法則と呼んでいる)。
今日の古生物学者のなかでは、なかんずくシュタインマン(G.Steinmann:
Geologische Grundlagen der Albstammungslehre,1908)が生物群の多系統的起源を確認した。
検討:同じ属内に違う系統が入っていること、これまで単系統起源が主流であったためつまり多系統起源は普通では考えられてきていないが、前の項目の寄生の問題などを含めて、交雑などもこれがあると推定する根拠の一つでしょう。今後問題になる可能性があります。
11) 移動の法則
一生物群の進化は、ほとんど、けっして地球上の同一地点でおこなわれないで、時にひじょうに遠くへだたった地点でおこなわれる。
この法則は、ドペレーによって1907年にはじめて明らかにのべられた。氏は多数の例、とくに第三紀の哺乳動物の移動によって、この法則を著名なものにした。
検討:植物の種の飛来と植生の拡大、また哺乳類の移動はなどで古生物学的にも生物学的にもこの現象はみられます。この法則の基本は拡散であり、拡散して移動して変異し新しい環境と調和して進化するのです。
12) 変異漸減の法則
一系統樹の特殊化が増大するにしたがって、その変異の数と範囲が減少する。
この法則は、ローザ(De la Rosa)によって1899年につくられた。
検討:特殊化が進むと変異が減少するということ。ある階層では特殊化が減っても他の階層では必ずしもそうならない点にも注意が必要です。歯の形と組織の関係などで良く分かります(歯の形態形成原論を参照下さい)。
13) 進化限局の法則
特殊化しすぎた生物の型(種類)は、その子孫をのこさずに滅びる。
この法則は、ドロ(Dollo)によって他の二つの法則(21および23参照)とはべつに、1893年につくられた。
検討:絶滅する生物もあるということ。色々な階層(目、科、属などなど)で認められる。しかし、特殊化しても絶滅しない種類もある(例えばゾウ=長鼻類がそうです。鼻に限らず牙や臼歯など、非常に特殊化しています)。私の考えでは、要するに生き残るには特殊化しても個体内、環境などとバランスが保たれる、体制の原則に沿う、ということです。
14) 進化無限局の法則
種は無限に変異し、つねに新しい種に変遷することができる。
この法則は、ヘッケルによって1866年に設定された。
検討:変異はつねにどこでもいかなる生物の階層でも起こることを意味します。変異の問題でもあるし、同じものはないという法則です。その意味では物質界と共通の原則です。
15) 系統進化の速度不同の法則
異なる系統樹の枝の進化の速度は一様ではない。
この法則によってあらわされる事実は、すでにダーウィン(1859)によって注意されて論じられた。最近(1907)ドペレーは、この新しい例を発表した。
検討:進化速度は変化の早さですが、種類それぞれ、また各階層によって進化速度が違うということにつきます。生物の自然分類では、ある種類では属を区別する特徴が、他の種類では目、あるいは科、種を区別するような違いが生じます。たとえば長鼻類(目)の臼歯(器官レベル)の形態は変異が多く一定ではないが、霊長類(目)の歯は比較的安定した形質を示すが厳密には変化していることなどです。これを進化速度と結びつけたのは慧眼ではないでしょうか。つまり、進化の時間の問題をハッキリと意識していることです。
16) 時代(段階)の法則
生物の各群は、その進化にあたり、幼年期、壮年期および老年期をへて、ついに絶滅する。
この法則はヘッケル(1866)によって最初に設定された。しかしかれ以前にもすでにおおくの反進化論者によって、この法則は支持されていた。すなわち、ある種族の古生物学的年代において、その個体数および変種の数を、以上の三段階の特徴であるとみとめていた。
検討:特徴的な生物種(例えばアンモナイト、ゾウ=長鼻類などなど)ではこれがわかりますが、全ての生物でそうだとはいえません。違う様相(進化様式)を示すものもあります。つまり、この進化段階のあるところで絶滅したり、ある段階を経ずに次の進化段階へすすむこと、進化段階が不明瞭だったり、いろいろあるのです。この法則は典型的なもの(教科書的な進化の例で認められるもの)ですが、私はこれを生物界全体としては特殊な例ではないかと推定しています。そのような視点も必要でしょう。
17) 痕跡器官消失の法則
痕跡的となった機能を営まない諸器官は、一生物群の進化にあたってぜんじ減少し、ついに完全に消失する。
この法則の最初の部分はダーウィン(1859)年によってしばしば観察され、かつ論じられた一つの事実をあらわしている。完全に消失した痕跡器官が存在していたであろうかということもまた、よく知られた事実である。
検討:様々な変異の中にこの現象も認められます。しかし痕跡的と考えられた器官(例えばヒトの虫垂、松果体など)が他の機能をするつまり姿を変えて存在することもあるのです。痕跡自体もまた変異の一つであり各階層に認められます。つまり全体としてバランスが保たれれば残る(痕跡となる)ということだろうと、私は推定しています。
18) 相関進化の法則
生物の諸群の進化は、その過程で相関の法則に従う。すなわち、進化する一生物の全器官(および器官の諸部分)は同時に比例的に変化する。
この法則はキューヴィエ(G.Cuvier:化石の骨格の研究、1834、P178;すべての生物は一つの綜合体、完成した単一系を形づくっている。その諸部分はたがいに連絡し、相互の反応により同じ一定の作用に協力する。これらの諸部分のいずれも、他の部分がともに変化することなしには変化することができない。従って諸部分の各々は個々べつべつにとりあげても、他のすべての部分を示し、代表するものである。)の相関の法則が、進化論学者によってとりあげられたものにほかならない。キューヴィエの法則は、ダーウィンによって1859年にはじめて明らかにこのように解釈された。ダーウィン以後の大部分の進化論学者・自然科学者は、これを進化のほとんど公理的な位置法則とみなしている。
検討:平衡と調和、対称性と相補性、階層性を整理する必要があります。普遍性のある重要な法則です。一つの系としてみると、あらゆる構成物は相互に関与し調和しています。しかし完全な調和でないことから進化が生ずるのです。
19) 非相関進化の法則
生物の諸器官(および器官の諸部分)は、一群の生物の進化の過程で相関の法則にしたがわない。しかし、いくつかの部分は急速に進化して、ひじょうに進むようになるのに反して、他の部分は徐々にしか進化せず、あまり進まない状態にとどまる。そして、ほとんど進化せずに、原始的なままにとどまる部分さえもあることがある。
この法則は、この論文の著者によってはじめて明らかに設定された(ダーウィンはThe Variation of Animals and Plants under Domestication, Vol2,1868,の一章全部(第二巻の第23章)を「相関的変異性」のためにあてている。)
検討:一つの対象に限定するとこの法則があてはまる様にみえます。しかし、前記の平衡、調和、対称性と相補性、階層性を考慮に入れると局部的変位の一つとして理解できます。そして他の機関とのバランスという視点も必要でしょう。
20) 上昇進化の法則
一群の器官の進化の過程で、諸器官の前進的進化には、その反面、からなず退化をともなう。
この法則は、ドムール(J.Demoor)・マッサール(J.Massart)・ヴァンデルヴェルデ(E.Vandervelde)の共著になる、すぐれた文献「生物学および社会学における退行進化」のなかではじめてのべられ、かつ多数の例によって有名になった。ドロもまた、その立論の協力者である。
検討:これは平衡と調和、対称と相補などの基本的法則の一つ、対称性の一つです。
21) 進化不可逆の法則
一生物群の進化にあたって、一生物体、一器官あるいは一部分の構造が失われると(すなわち変化すると)それは、その群の新しい(反対の)進化においてはふたたび獲得されることがない。
この生物進化の基本法則は、ドロ(1893年「ベルギー地質学会報告」のなかの調書164-166頁の「進化の法則」および、1903年「ベルギー王室アカデミー報告」の科学部の中の「海亀の進化」に関する論文)によって1892年にはじめて設定された(1892年脊「椎動物の骨格の進化に関する自筆教科書」)。一般にこのドロの法則は、退化しまたは消失した部分あるいは器官にだけ関係があると考えられているが、これは正しくない。この法則の意味は、もっと広く、機能を営んでいる器官をまた包含する。
検討:失われた器官は再び獲得されることはないのは一般的な事実です。宇宙や地球、また哲学的な課題でもあり、時間は戻らないと関連する普遍的な法則です。ただし人工的に遺伝子に記憶されていた器官を再生(組織工学)できる時代になってきたこともまた確かです。
22) 連続進化の法則
一系統樹の連続する種の進化は、ゆっくりした、漸進的な変異によっておこなわれる。
この法則は、まずラマルクによって1809年に、ついでとくにダーウィンによって1859年に設定された。ダーウィンは、変異の連続を、種の進化のただ一つの様式であるとかんがえている。
検討:変異は常に起こることは生物学的に、そして変異が進化に結びつくことは古生物的に実証されています。しかし、進化に結びつく変異がどのようにして進化にたどり着くのか、はこれまで議論されていません。私は、体制の基本、地球や宇宙の法則に沿った変異が進化に結びつくと推論していますが、その過程は長いものや短いものが多様なのです。つまり種によって、器官や組織などによって多様な定着の時間があるのです。その多様な時間経過の中で変異は徐々に定着する、それには嗜好性が大切ですが、これがこの法則の本質と考えられます。
23) 不連続進化の法則
一系統樹の連続する種の進化は、突然変異によっておこなわれる。
これはまずドロによって1893年についでとくにドフリスによって1901年に、設定された。ドフリスは、ダーウィンに反して、突然変異を種の進化のただひとつの様式であると考えている。しかしながら、突然変異は一定の範囲にだけみとめている。
検討:オオマツヨイグサの突然変異はよく知られていますが、ここでも進化に結びつく検討指されていません。むしろ近年は突然変異がその膨大な表現形に至る過程によって不利となり進化に結びつかないと考えられています。私はたとえ大きな突然変異でも、宇宙、地球の法則に基づいた変化であるなら、超長期的に継続し進化に反映されると考察しています。
24) 指向性、あるいは、定向進化の法則
一生物群の進化の連続した推移は、ある定まった方向にしたがう。
この法則は、まずネーゲリー(C.Denaegeli: Mechanische-physioogische Theorie der Abstammungslehre
1884参照)によって1884年に、ついでアイマー(Th.Eimer: Die Entstehung der Arten,
I Teil 1888および II Teil
(Orthogenesis der Schwetterlinger) 1897参照)によって1888年に設定された。前者は、定向進化は内的要因によって決定されると考え、後者は外的要因によって条件づけられると考えている。(L’Evolution universelle)
検討:定向進化は環境と個体、種など、体内条件が調和した時に進むのです。外因と内因と区別するのは一見理解しやすいのですが、平衡と調和、対称と相補、階層などを総合的に検討する必要があると、私は考えています。